魔方陣論文を読んで   1

 

はじめに

 魔方陣については,当初はあまり興味がなくかつ内容が難しいように感じた.しかし第一,第二論文の筆者によるものゆえ挑戦してみることにした.

 結構時間と思考力を駆使しなければ理解できなかった.入るための敷居は少しではあるが高い.しかし貴重な経験だった. いろいろ考えが刺激された。この論文も豊穣generativeであると感じた。

 

 以下,魔方陣について書いてみたい

     A.数字(数を表す文字)自身がもつ方向性と魔方陣

     B.方陣と魔方陣の数の想像を超える多さについて

     C.思考の枠を強く制限することで逆に思考を促進する魔方陣

     D.魔方陣文献にみる魔方陣の拘束性について

 

A.宇宙空間に浮かぶカラー魔方陣

        数を表す文字自身がもつ方向性と合同な8つの魔方陣

 

 90度ずつ回転すると4種類の正方形の数字の組合せができる.正方形を裏返しにして同様に90度ずつ回転すると4種類の正方形の数字の組合せができる.よって一つの方陣はほかに7つの合同な方陣をもつ.合同な8つの方陣を一種とみることができる.

 

  この8つの合同魔方陣についていろいろなイメージが浮かぶ.上下左右の区別がつかない宇宙の無重力空間に自分が浮かびながら,同じように近くにゆっくりと体操競技の2回転半ひねりのような二つの方向に回転しながら浮かんでいる魔方陣を見るとする.透明なプラスチックの板に,数をあらわす方向をもたないしるし(例えば3方陣の場合,その9個のマスの中央に 9色の円形を さいころの目の1のように作る )が使われているとする.そうすると8つの合同な魔方陣は,感覚的直観的にもまったく同一の魔方陣に見える.

 

 私たちのつかっている数字に,上下左右,裏表があるので合同魔方陣は一見異なる姿に見える.8つとなる理由は,数字そのもの表現形態にある.さいころは,4面に座っているゲームの参加者から同等にみえる必要から円で数字を表している.円はすべての直径について線対称である.(6.28.2002)

 

B.方陣と魔方陣の数の想像を超える多さについて

    明示的explicitに言及している文章はないようだが,これこそ魔方陣の本質的特徴ではないか.

 

1.方陣の数について

 方陣というものを,魔方陣と限定しないで,一般化して定義する.

 1からmまでの連続する自然数がそのマスの中にそれぞれ一回だけ入っている正方形とする(1から始まる連続する自然数を要素とする正方行列).

 

 方陣の一辺のマスの数で,方陣の大きさを表す.

  2方陣,3方陣,4方陣,・・・・・ n方陣

  そのマスの数は nの二乗

 

方陣の名前

3方陣

4

5

6

7

8

マスの数

9

16

25

 

36

49

64

n^2

 

そのm個のマスにはいる数字の順列を考えると,m!である.

Aで述べたように,合同な方陣,魔方陣はそれぞれ8つあるので8で割る.

 

  m                 m!                     m!÷8

1

1

0

2

2

0

3

6

1

4

24

3

5

120

15

6

720

90

7

5,040

630

8

40,320

5,040

9

362,880

45,360

10

3,628,800

453,600

11

39,916,800

4,989,600

12

479,001,600

59,875,200

13

6,227,020,800

778,377,600

14

87,178,291,200

10,897,286,400

15

1,307,674,368,000

163,459,296,000

16

20,922,789,888,000

2,615,348,736,000

17

355,687,428,096,000

44,460,928,512,000

18

6,402,373,705,728,000

800,296,713,216,000

19

121,645,100,408,832,000

15,205,637,551,104,000

20

,432,902,008,176,640,000

304,112,751,022,080,000

21

51,090,942,171,709,400,000

6,386,367,771,463,680,000

22

1,124,000,727,777,610,000,000

140,500,090,972,201,000,000

23

25,852,016,738,885,000,000,000

3,231,502,092,360,620,000,000

24

620,448,401,733,239,000,000,000

77,556,050,216,654,900,000,000

25

15,511,210,043,331,000,000,000,000

1,938,901,255,416,370,000,000,000

   注.四角で囲んだ4.9.16.25は2.3.4.5次の方陣である.

 

作ることができる方陣の種類

左の式の計算結果

作ることができる魔方陣の数

魔方陣の方陣全体に占める割合

2方陣

 

4!÷8

3

0

0

3方陣

9!÷8

45360

 

上の欄の数字の10の4乗倍

1

2.2×10のマイナス5乗

4方陣

16!÷8

2615348736000=2.6×10^12

    2.6兆種類

上の欄の10の8乗倍

880

上の8.8×10の二乗

3.3×10のマイナス10乗

5方陣

25!÷8

1,938,901,255,416,370,000,000,000

1.9×10の24乗

1.9の1兆×1兆

上の欄の10の12乗倍

275,305,224

=約2.7億2.7×10の8乗­

上の 10の5乗

1.4×10のマイナス16乗

6方陣

36!÷8

46,499,165,848,737,600,000,000,000,000,000,000,000,000

4.6×10の40乗

上の欄の10の26乗倍

不明

 

上の10の8乗?

ということは

2.7×10の16乗

2.7の1兆倍の1万倍?

不明

 

10のマイナス23乗?

 

とすると左の欄は

 10の17乗?

 

これに すでに計算され確定している魔方陣(5方陣までしかわかっていない)の数を加えた表を作ると,以下のようになる.

1. 5方陣の種類はインターネット上および大森清美『新編 魔方陣』1992 p.124に書いてあるそれぞれ別の計算による数字に基づく.6以上の魔方陣の数はまだ現在は計算されていないようである.ブリタニカの魔方陣の項を見ると,まだ5方陣の数は未知である として解説がされている.ということは,5次魔方陣が約2.7億であるということがわかったのも比較的あたらしいことであることが推測される.

 なお自費出版の5巻本,寺村 周太郎 『魔方陣』 1962 第2巻まえがき によれば5方陣の数として16世紀フランスでは57600個が数えられ,雑誌ネイチャーの1902年版には6万個以上,1914年には60万個以上と予測され,1926年w.rouse ball は75万個と予想し,アメリカのA.L.CANDYにより,1932年には約1000万,13288952と予測されていたという.実際にはその20倍もあったことになる.パソコンのない時代において魔方陣の数の計算が大変困難であったことが推測される.

 魔方陣の数は数学的に理論的に見通しよくすっきり確定できない.4方陣まではこつこつ手で分類して書いていくことで880を確定できたが(これでさえもたくさんの場合わけが必要である),5方陣はパソコンを使ってはじめて数が確定できた.ここに後で述べる魔方陣の強い拘束=プリベンション性を感じる.

 6方陣は,単なる方陣の種類が,5方陣の10の16乗倍あり,膨大な場合わけをしなければならず,パソコンを利用する前の段階で頓挫して,確定できないのであろう.これこそ魔方陣の重要な特徴であると私には思われる.

 

注2. 指数関数と比較した方陣の数の増え方の急速性

 方陣の数はある数 n 以上になると,指数関数より速く増加していく.

   A,Bをそれまでの数とすると

    y=A× n*(n+1)*(n+2)*(n+3)・・・・ 

    y=B× n*n*n*n*n*・・・・・・・・・・・・

 

 この表から予測されるのは,魔方陣の数も表にあるように 1  → 880  → 2.7億  と飛躍的に増加していくが,方陣の増加率よりは小さい.魔法陣の数÷方陣の数を計算すると,どんどん小さくなっていく,ということである.

 「魔方陣の数は膨大にあるが,方陣の数はさらにさらに膨大にある」

 「4方陣の場合でも,2.7億と膨大にある魔方陣は, 5方陣では1兆の1兆倍の1.9倍もある」

  「方陣の数は,一辺nに対して その二乗をとり,その値の階乗をとった数字になる.階乗関数*自体が,ねずみ算といわれる指数関数よりも大きく増加するのだが,さらに二次関数との合成関数になっているので,さらに大きな速さで増加していく. y=(n^2)! 」

   かぎ括弧は結論的,というほどの意味.

 

 

 

C 宇佐美圭司,マンダラ,魔方陣

    思考を制約するがゆえに,逆に促進するプリベンションとしての魔方陣

 

 美大教授で画家である宇佐美圭司は,ここ30年以上,一貫して全く同じ形の人型4種類のみを円のなかに重ねた図形のみを複数配列した絵画を描き続けている.その絵画は

 「1965年のロサンジェルス、ワッツ地区の黒人暴動をとらえた1枚の報道写真から取り出された「たじろぐ人、かがみこむ人、走りくる人、投石する人」という4つの人型をさまざまに関係づける独自の画面構成・・・・・

 宇佐美圭司展の説明より http://www.for-you.co.jp/2001_8topix/usami/  

および http://www5.ocn.ne.jp/~sechiko/120usami.htm  参照。

 

 

 宇佐美は,その 『絵画論』1980のなかで,プリベンションという語を提示している.画家が依拠する基本的な基盤,形式,(作家では文体 )というような意味で,近代の絵画では遠近法(近くのものは大きく遠くのものは小さく描き,すべてに影をつけ,立体感を重視する )をその代表に挙げている.

 

 かれは自閉症の子供が,ある特定の儀式的複雑な行為をしたあとでないと,食事をすることができない,という事例(ベッテルハイム 『自閉症 うつろな砦 1.2.』 みすず書房)をあげて,現代の画家にとって拘束すると同時に,絵を描くことを可能にする枠,基盤という意味のプリベンション論を展開する.

 

 すなわち同書 2. に紹介されているジョイ少年にとって.複雑な空想上の電線を部屋にはりめぐらすという動作をする一連の儀式は,時間がかかるため食事をすぐにとれない,という意味で障害として働くが,同時にその儀式をすれば食事をすることができる,という意味で食事を可能にする儀式でもある,

 

 プリベンションpreventionとは プレ=前に ブニ―ル=来る ,時間的空間的にまえに来ることで妨害し,また促す.

 

  画家の絵を20年前にみたときには刺激的

( もの ではなく、関係性 が絵になっている . 参考 ベラスケスの 侍女たち1656

http://members.tripod.co.jp/serpent_owl/arch-pic/velazquez.htm  )

であったが,20年後にまた久しぶりに画集に出会ったら,同じ絵だった.曼荼羅を書いているのだ,と考えればいいのだと考えた.しかし同じ表現題材を使い続けるとういうのは表現者にとっては非常な拘束 (プリベンション)であることにはかわりはない.かれは死ぬまで同じ要素からなる絵を描き続けるであろうし、その完結したときには、人生後期に書いたほとんど同じ絵が全体として曼荼羅を構成するということになるのではないか、類似性ゆえに全体が関係付けされる作品群、閉じた体系としての作品群になるのでは、と思われた。またこのような強い限定を自らに課した画家も美術史上初めてであろう.(現代との関連性の強さが推測される.宇佐美は現代美術がつよい閉塞のなかにあると考え,それゆえに逆に強い閉塞に自己をおくことでそこからの脱却を図る,という意図をもっているようである).

 

 宇佐美圭司の絵画群を魔方陣論文ととりくみつつ思い出したのは,魔方陣の世界の枠組みを強く感じたからである.

  その理由を考えてみると

 1. 場合わけをして膨大な組合せを調べていく,という大変な過程が必要である.ゆえにパソコンが決定的意味を持つ。

 2. 魔方陣を 歴史の中で発見され伝播された方法で つくることには 成功する.しかしそれが可能な魔方陣全体の中でどのような 割合と 位置を占めるのかが自明ではない.たくさん作れるが、可能な魔方陣がさらに膨大にあるからである.

 

 「 魔方陣は,思考を押さえると同時に促す. パズルとして,だれでも考える事ができるのはその限定ゆえである.」

 

「ずらし,連続数,方向性,上下左右うらおもて,裏返し,回転,位の繰り上がり,割り算,足し算,引き算,対称性,大きさのバランス,最小公倍数,最大公約数,偶数と奇数,階乗,二乗,等差数列,数列,正方行列の入れ子構造,入れ子構造の多層化,多層構造をつくることで宇宙大にまで拡大が可能な魔方陣,魔方陣の条件を緩和した准魔方陣以外の方陣には何があるか(← コメ方陣)などなど,さまざまな要素,内容を考える契機となる.」

 

 

D 魔方陣文献

 1.  加納敏  『数の遊び 魔方陣・図形陣の作り方』 冨山房 1980

     題名のとおり、多種類な方陣について作り方が解説してある。とりえず作って、人を驚かせたい、という読者向き。

 2. 大森 清美 『新編 魔方陣』  冨山房 1992  旧版1972 

  包括的総合的な解説がある.

 

3. 佐藤 肇、一楽重雄  『幾何の魔術  魔方陣から現代数学へ』日本評論社 1999 

  位相数学(トポロジー)が専門の大学教授二人による本。アフィン幾何学をつかって魔方陣を分析している(らしい)が、それは本文の12% 17ページに過ぎず,また魔方陣の定義は、魔方陣論文でいう不完全魔方陣(縦横だけが等しい方陣)になっている。なぜそうなっているか.たぶん普通の魔方陣だと、アフィン幾何学的説明ができないのであろう。

 

4.TBSブリタニカ百科事典 魔方陣の項  7.2に読む

   5ページにわたり魔方陣の歴史,作成法,数学者の研究史などが図入りで解説されている.作成法は中国 →イスラム諸国,インド  イスラム諸国→欧州と伝播したらしい.魔方陣論文に書いてある解法がいつ,どこで知られていたか,が分かる.2000年の研究にもかかわらず依然として多くの未解決な問題が残っている,との言葉で締めくくられている.*2000年の研究にあたる研究の大きな部分をなにも参照せず独力で行ったのが魔方陣論文である.

 

  注.7.3 *これも魔方陣のプリベンション性の現れであると気づいた.2000年にわたる遅遅とした魔方陣に関する知識の蓄積=思考の進行の「抑制」,魔方陣論文が数年でその歴史を一気にたどるという思考の「促進」.

 このプリベンション性こそ魔方陣の語に魔という語がつく理由であると気づく.

 

                                            以上.6.11-7.1.2002

7.2-4追加,修正

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